東京地方裁判所 昭和46年(借チ)1083号 決定
〔主文〕1 申立人が、別紙目録(二)記載の建物を取り毀し、同目録(一)記載の土地上に同目録(三)記載の建物を建築することを許可する。
2 申立人は、相手方らに対し、金四四万円の支払をせよ。
3 別紙目録(一)記載の土地に関する申立人・相手方ら間の賃貸借契約の賃料を本裁判確定の日の属する月の翌月分から一ケ月五二一〇円に改める。
〔理由〕(申立の要旨)
1 申立人は、申立外松原秀吉から昭和一四年六月一二日別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を非堅固建物所有の目的、期間三〇年の約で賃借し、右借地契約は、期間満了にともない法定更新され、その後昭和四六年二月一日松原秀吉は死亡し、相手方らは共同相続により賃貸人の地位を承継した。賃料は、昭和四三年六月一日から一ケ月二〇二一円に改められ、現在にいたつている。
2 申立人は、本件土地上に所有する別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を主文第一項記載のように改築したいが相手方らの承諾が得られないので、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。
(決定理由)
1 本件資料によると、本件土地はもと松原秀之助の所有のところ、昭和一二年六月八日同人が死亡し、松原秀吉(相手方松原ハマの夫、その余の相手方らの父)が家督相続によりその所有権を取得したこと、 申立人は、(借地契約成立の時期は後記のように本件の資料からは明らかにすることはできないが)昭和二〇年以前から本件土地をその所有者から非堅固建物所有の目的で賃借し、右賃借当時から本件土地に本件建物を所有し、現在にいたつていることが認められる。申立人代理人は、右借地契約が申立人・松原秀吉間に昭和一四年六月一二日期間三〇年の約で成立したと主張し、相手方松原徳松同芦田ヤス子両名の代理人は、申立人・松原秀之助間に昭和四年六月一一日期間二〇年の約で成立したと主張するが、借地契約成立の日時及び借地期間の定めの有無を明らかにする資料はない(右相手方ら代理人は、借地契約書を賃貸人側で所持しているといゝながら、それを提出しない)。
相手方松原徳松同芦田ヤス子両名の代理人は、申立人は、本件土地以外に広大な自己の土地を所有し、酒類販売業を営むほかアパートを経営し、経済的に裕福であるに反し、本件土地の東隣に居住する相手方芦田ヤス子の居宅は、その敷地が狭少であるため、松原秀吉は、昭和四四年六月一〇日の期間満了後は申立人から本件土地の返還を受け、相手方芦田ヤス子の右居宅を増築すべく考え、申立人に対し、右期間満了に先立ち、二回にわたり期間満了後は借地契約を更新しない旨事前に通告したほか、期間満了後も昭和四四年一一月七日附の内容証明郵便で本件土地の使用継続に異議を述べているので、本件土地を必要とする双方の前記事情から、右異議は正当事由に基づくものというべく、申立人の借地権は期間満了により消滅し、それ以後申立人は本件土地に借地権を有しないと主張するが、前記のように借地契約成立の時期及び借地期間の定めの有無を明らかにしえない本件では、昭和四四年六月一〇日に借地期間が満了したことを認め難く、また、松原秀吉が右の如き更新拒絶の事前通告及び異議を述べたこと認める資料がないのであるが(右相手方ら代理人は、前記内容証明郵便を提出せず、この点につきなんら立証しようとしない)、仮りに、昭和四四年六月一〇日に期間が満了し、松原秀吉が主張の如き更新拒絶の事前通告及び異議を述べ、右異議が正当事由に基くとしても、松原秀吉は、その後、申立人の本件土地使用を禁止し、自ら本件土地を使用するために申立人に対し土地明渡訴訟を提起するなどの積極的行為に訴えたことを認める資料がないのみならず、相手方松原徳松が申立人代理人藤井弁護士に宛てて差し出した昭和四六年六月六日附同年七月一五日附の二通の手紙(後記のように松原秀吉は昭和四六年二月一日死亡し、右手紙を差し出した当時は相手方らにおいて共同相続している)によれば、相手方松原徳松は、申立人の本件建物改築計画に対し、改築すべき建物が床面積の関係で建築できないこと及び相手方芦田ヤス子の前記居宅に対する日照等の関係から、改筆を承諾できない旨申し述べていることが認められ、このことは、申立人が本件土地につき借地権を有することを前提としているものというべく、借地期間が昭和四四年六月一〇日満了したとしても、本件借地契約は借地法第六条により更新されたものというべきである。
本件の資料によると、松原秀吉は、昭和四六年二月一日死亡し、相手方ら六名において共同相続したことが認められる。相手方らは、相続により本件土地の所有権を取得したのは相手方松原徳松同芦田ヤス子の両名のみで、他の相手方らは本件土地の所有権を取得しないと主張するが、相手方らの右主張が認められるためには、相手方松原徳松同芦田ヤス子を除くその余の相続人が相続放棄をしたとか、相手方ら間の遺産分割協議の結果本件土地の所有権が相原方松原徳松同芦田ヤス子の両名の共有となつたとか右主張を理由づける事情の存在を必要とするところ、相手方らはこの間の事情を主張立証しないのみならず、右主張に副う相続登記も経由していないのであるから、申立人との関係においては、相手方らは共同相続により賃貸人の地位を承継したものというべきである。
相手方松原徳松同芦田ヤス子の両名の代理人は、本件建物はすでに朽廃していると主張するが、本件の資料によれば、いまだ朽廃の域に達していないことが認められる。
右のように、申立人は、昭和二〇年以前から本件土地を賃借しているのであり、右借地権が消滅したことを認める資料はないのであるから、右借地権は現在も継続しているものというべく、本件の資料によれば、本件改築は土地の利用上相当であり、借地契約上増改築制限に関する特約の存否は不明であるので、本件申立は、これを許可すべきである。
2 附随処分
本件改築により、借地上の建物を利用することにより申立人が得べき収益が増加することは明らかであり、右収益の増加は、本件土地の効用の増加となる一方、賃料増額の要因となるので、申立人に対し、相手方らに対する財産上の給付を命ずるとともに、賃料を改定するのが相当である。財産上の給付は、本件建物が相当老朽化していることおよび改築すべき建物が共同住宅であることを考慮し、従来の裁判例に徴し、鑑定委員会の評価する本件土地の更地価格(一平方米当り八万七八〇〇円)の約3.5%に当る四四万円とし、賃料は本件の資料によると、昭和四三年六月一日以降一ケ月二、〇二一円であることが認められるが、鑑定委員会の意見を参考として本裁判確定の日の属する月の翌月分から一ケ月五二一〇円に改める。 (小山俊彦)
目録
(一) 東京都世田谷区経堂三丁目三二〇番一
宅地 340.49平方米のうち142.14平方米(四三坪)
(二) 右地上所在
家屋番号 七二一番
木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅
床面積 61.15平方米(一八坪五合)
(三) 木造二階建共同住宅
床面積 一階 64.80平方米
二階 64.80平方米
(平面図略)